かてごと帖

わらびの一本漬け

わらびの一本漬け

日本一のわらび生産量を誇る
山形県西置賜郡小国町。
町内には、観光わらび園がいくつもある。

ここは20町歩(20ヘクタール)という広大な山。
戦時中は軍馬の干し草を生産していたという。
このわらび園の山焼きに
参加させていただくことになった。

 

わらびの一本漬け

5月初旬のこの日は暑すぎず、ほぼ無風。
山焼きには「出来すぎ」という好条件なのだそうだ。
風が強いと、火はどこに行くかわからず、
勢いも増し、作業は難航してしまう。

今日の火は地表をゆっくり焼いていく。
そして取り残すこともない。
「こんなやりやすい山焼き、今まであっただろうか」
山焼きリーダーの川崎さんが話してくれた。

わらびの一本漬け

進め方は、まず山の上側を燃やし
燃やす範囲を形づくる。
それから山の下側を燃やす。
先に下側から燃やすとと、火に勢いがつき、
燃え広がりすぎて危ないからだ。

レーキ(巨大なフォークのような農機具)で燃えた草を
火がついたまま横に引っ張って火を広げていく。
燃えすぎた部分にはジェットシューター
(背負える水タンク)で水をかけながら、作業が続く。

同じ年に、何箇所も山焼きを行う兵(つわもの)もいるそうだ。

わらびの一本漬け

近くに寄るとさすがに怖い、熱い。
パチパチと草が燃える。
意外にも、匂いはない。

たまに火の竜巻のような火柱が上がる。

わらびの一本漬け
わらびの一本漬け

白っぽい茅(かや)の部分に差し掛かると
火の勢いが増す。

山焼きは手間も時間もかかるが、
山を焼くことによって、これから生えてくるわらびが見つけやすくなる。

また灰の成分が土によく、
山焼きをしたわらびと、そうでないわらびには、
きちんと違いが出るから、欠かすことができない作業だ。

 

わらびの一本漬け
わらびの一本漬け
わらびの一本漬け

3週間後。
あんなに全てを焼き尽くしたのに
もう緑が一面に広がっている。
見渡す限り、わらびがびっしり。

通年は大体2週間ぐらいで生えているのだが、
今年は雪が少なく、その影響もあって
少し遅れたそうだが、とにかく
わらび、わらび、わらび。

わらびの一本漬け

山焼きで土の表面は焼けても、
わらびの地下根に影響はない。

わらびはシダの仲間。
葉が開く前の若芽を収穫して食べる。

地下根から取れるデンプンはワラビ粉と言われ
大変な貴重品だ。

わらびの一本漬け

スッと伸びた、わらび。

付近には山のアスパラと呼ばれる
「しおで」も生えている。

わらびの一本漬け
わらびの一本漬け

空に向かって葉を開いた、わらびたち。
残念ながら食べられないが
その姿と量は圧巻で美しい。

わらび取りは6月いっぱい楽しめる。

実際わらびを取ってみた。
わらびが「こっちよ、あたしを取って!」
「そっちじゃないの。こっちよ!」みたいな感じで
呼んでいる、
忙しくて楽しい、
無になれる。

わらびの一本漬け

ジャーン!

ひとりで3時間。こんなに取ってしまった。
リュックやビニール袋じゃ、間に合わない。
わらび取りには風呂敷がとっても便利だとわかった!

わらびはそのままでは食べられないので
重曹(または木灰)を使って
アク抜きをする。

 

わらびの一本漬け

アク抜きしたわらびを醤油につけて
わらびの一本漬けが完成。

醤油がよくしみて、ぬるめ気(ぬるぬるした食感)が
あって、うまいんだなー。これが。

シャキ、シャキ食感も残ってる。

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わらびのアク抜き(須貝家のやり方)

わらびはアク抜きしてから食べる。アク抜きには昔からの木灰を使ったり、重曹を使う方法がある。重曹は量が多いと柔らかくなり、少ないと苦味が残る。お湯が冷めるまで半日(12時間)ほど、そのままにし、冷めるときにアクが抜ける。ほかに塩漬けする方法もある。

⚫️材料
・わらび 2Kg
・重曹 小さじ6(約30g)
・塩 大さじ2(塩の量は個人の好みで増減してもok)
・水 3.6リットル

⚫️下準備
穂先がついているものは穂先を包丁で切ったり、手で取り除く。

⚫️やり方
1.沸騰した水に重曹と塩を入れ火を止める。
2.そこにわらびを入れ、下の方が真っ青になったら箸で上下を返し、そのまま冷めるまで置く。その際、わらびが水から出ないようにする(出てしまうと色が黒くなる)。3.完全に冷めたら(半日12時間くらい)、液を半分捨てる。さらに、捨てた液の2倍の量の新しい水を足し、冷蔵庫に保存する。3の液につけておくと、3日ほどは良い状態を保つ。食べる時はそこから取り出し、よく洗って食べる。

⚫️食べ方
おひたしとして食べる。辛子を添えたり、酢醤油や(麺つゆなどに酢を加える)や生姜を添えた醤油でも。ほかに味噌汁や、山菜汁などに。

⚫️他のアク抜きのやり方
重曹編
わらびを大きな容器に入れる。そこに重曹(注ぐ熱湯の量の1割ほど)をふりかける。熱湯をわらびがかくれるほどたっぷり注ぐ。しっかり冷めるまで半日おく。その後、液を完全に捨て、新しい水と取り替え3~4時間置いたら食べられる。

木灰編
わらびを銅鍋に並べ、木灰を一面に振る。上から熱湯をそそぐ。量はわらびに被るくらい。落とし蓋をして一晩おく。翌日水洗いして水につけておく(早く食べたいなら、熱湯にくぐらせて、水にさらす)。

⚫️保存方法
山菜の重さの4割の塩で漬ける。食べる際は塩抜きして使う。

わらびの一本漬け

わらびを好みの醤油液に入れたもの。冷蔵庫に入れておけば1ヶ月くらい保存が可能。食べきれない時は冷凍してもOK。それぞれの家庭の好みで辛味を足してもよい。一本漬けわらびは上から食べるのと、下から食べるのでは味が違うという説も・・・。

⚫️材料
・アク抜きしたわらび 500g
・だし醤油     130cc
・みりん      40cc

醤油とみりんの量は変えてもOK

・好みで辛味
須貝家では麹とだし醤油、青唐辛子を長時間漬け込んだ「辛味たれ」を小さじ2ほど入れる。

⚫️つくり方
1.アク抜きしたわらびを洗う。根元の硬いところは切り捨てる。
2.チャック付きビニール袋や容器に、調味料を入れる。そこに1のわらびを入れて冷蔵庫で保存する。

3.たまに天地をひっくり返す。調味料の分量が少なくてもわらびから水分が出てくる。半日ぐらいから味がしみて食べられる。

教えてくれた人/ (山焼き)
山焼きを先導し、わらび園を共同管理するリーダー・川崎均さん(大工・写真中央)、今秀夫さん(会社員・写真左)、そして今回、山焼きを案内してくれた須貝憲二さん(元大工・写真右)。先祖たちから受け継がれてきた山を、今も手入れを行い、大切に守り続けている。

教えてくれた人/(アク抜き、一本漬け)
須貝千賀子さん
小国町叶水生まれ。山焼きを案内してくれた憲二さんと結婚。宿屋がない叶水で、商人や遠方からの客を宿泊させてきた須貝家。千賀子さんは宿泊客を山菜料理などでもてなしてきた。庭には花がいっぱい。手芸も上級者。

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