だんご木
ビンボウ持ってって
カホウ持ってこい
ヤハハエロ
呪文みたいな、願いごとのような不思議な言葉。
だんご木とヤハハエロについて教えてもらおうと
山形県南西部、川西町の小方圭子さんを訪ねる。
この日も雪が降っていた。
冷え切った私たちを、ふんわり暖かい空気と圭子さんが迎えてくれた。
圭子さんの家は薪を使った全館暖房システムで、
空気が初夏のようにあったかい。
1つの大きなボイラーで薪を燃やし、水を温めている。
だからボイラー室は、山の木でいっぱい。
山を持っている小方家では45年前から、
この完全オーダーメイドのセントラルヒーティングを行っている。
ボイラーに薪をくべてお湯を焚き、
全部屋にめぐらされたパイプが
それぞれの部屋を暖める。
空気そのものが暖まっている。
お湯もやわらかく、体にまとわりつくように温かいのだそうだ。
小方家では、雪の残っているうちに山から
材木を運び出し、夏の間に適当な大きさに切って
乾燥させる。
昔からの伝統を大事にしている小方家。
冬の風物誌、だんご木を圭子さんにつくってもらう。
地域の有志でつくった本にもだんご木について書かれていた。
だんご木で使うミズキ。
これも圭子さんの裏山から採ってきたもの。
若芽や古い芽などが餅の中に残らないよう
摘み取っておく。
小方家がだんご木をつくるのは1月15日。
この日は少し固めに餅をついて食べる。
残しておいたものを、直径3センチほどの大きさに
丸める。
それをミズキに刺していく。
ミズキは水をさくさん吸い上げる木。
「火事にならないように」と願いが込められている。
また枝が末広がりに成長するので
縁起が良いとされている。
この時期になるとスーパーにも
だんご木の飾りが売られている。
ふなせんべいという。
それに和紙を挟み込み
ミズキにつけていく。
色とりどりできれい。
だんご木は小正月の伝統行事。
小方家では、小さなミズキの枝でもだんご木をつくり、
それらのだんご木は、居間やケゴ屋(作業小屋)、車庫などにも飾る。
そしてこの日、正月の門松やしめ飾りを集め、
カヤや小枝などと一緒に、燃やすのだそうだ。
その際のかけ声が
「ビンボウ持ってって、カホウ持ってこい
ヤハハエロ」。
これを大きな声で唱える。
「さいと焼き」や「どんど焼き」などとも
呼ばれている。
だんご木飾りは、今年1年の福を呼ぶ縁起物。
家内安全、年祝い、学業成就、無病息災、厄払い
火難除け、五穀豊穣、とにかくなんでも全部
祈願する。
ふなせんべいには、えびす様、大黒様、千両箱
宝船、小判めで鯛などの縁起物があり
飾り付けてお祝いする。
山形市内では小正月にカブを神棚に飾る。
「大株主になれますように」という、商売繁盛の願いが込められている。
奥にある「白ひげ」と呼ばれるものは、今のアサツキ。
長寿の願いを込めて同じく神棚に飾る。
山形市で毎年1月10日に開かれる初市。
江戸時代からの歴史があり、ミズキやふなせんべい、カブ、白ひげが売られてる。
通りには、あざやかな色があふれている。
教えてくれた人/小方圭子さん
静岡県生まれ。宮沢賢治と井上ひさしの大ファン。井上ひさしの生活者大学校に参加したことが縁となり、川西町に嫁ぐ。夫の稲作、しいたけ栽培を手伝い、畑では
生活に必要なものを自家栽培・手づくりしている。