遊佐刺し子
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0093-1027x1540.jpg)
右肩から斜めにかけられた布に
施された見事な刺し子。
遊佐町に残る、
橇曳き法被(そりひきはっぴ)の一枚。
藍染めの木綿や麻に、木綿の糸で模様を刺す。
風を通さず、
袖なしで、軽くて動きやすい。
山の仕事になくてはならないものだった。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/10/53C5594-1540x1027.jpg)
鳥海山のふもと、山形県飽海郡遊佐町。
ここでは昔、生活の必需品だった薪を
山から橇に乗せ、
ふもとの村に運んでいた。
男衆たちは橇曳き法被を着た。
それが神聖な山・鳥海山の麓に入る際の
正装だったからだ。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/10/DSC8908-1540x1025.jpg)
鳥海山には男性しか入ること
ができなかった。
夏から秋にかけ、
山で必要な量の薪を切り出し、
長さを揃えて積み上げる。
冬となり、降り積った雪が、
藁沓(わらぐつ)で歩けるほど凍てつく2月。
男衆たちは橇を持って山へ入り、
薪をのせて下ろす。
突然起こる吹雪で、視界を遮られ、
谷に落ちたり、
木立などに追突することもあった。
命がけの危険な作業。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0184-1540x1027.jpg)
事故が起きないことを祈って、
橇引き法被は着られていた。
妻たちは一人ひとり、
橇曳き法被に異なる模様を刺した。
世界的に知られるアイルランドの
アラン模様セーター
(漁師が着るフィッシャーマンセーター)
にも同じ話がある。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0103-1027x1540.jpg)
土門玲子さんが初めて橇引き法被を見たのは
ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館。
「あれっ、これって遊佐になかったっけ?」
「刺してあるのは柿の花文様だ」
遊佐に戻った土門さんがロンドンで見た
刺し子の話をすると、
「うじさもあったっけ
(私の家にもありました)」と話が広がり、
橇引き法被がいくつも見つかった。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0116-1027x1540.jpg)
補修して使い続けられた日本の作業着。
日本では価値がないと思われた
それらの布や、継ぎはぎをした手法は、
近年、外国で「ボロ」と呼ばれ、
貴重なものとして扱われている。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0119-1027x1540.jpg)
破れた布に糸を刺した後、
藍で染めれば、
布は強くなり、虫も寄らず長持ちする。
昭和45年には無くなっていたという橇引き法被。
カマドが無くなると同時に、
橇引き法被という文化も無くなってしまった。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0176-1540x1027.jpg)
表から裏まで二枚重ねで
刺し子が施されている。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0152-1540x1027.jpg)
陶器のボタンがついているのは
明治時代のもの。
ボタンが買えず、ホックや紐などで留めたもの。
足袋のコハゼを付けたものも。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0238-1540x1027.jpg)
遊佐刺し子は、模様を描かず、
自分の針目で模様を刺していく。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/53C5507-1540x1027.jpg)
これは柿の花文様の表。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0055-1540x1027.jpg)
裏にひっくり返すと、柿のヘタの模様に。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/11/MG_0244-1540x1027.jpg)
稲を刈り取った後の稲株を表した「草刺し」、
ほかの地域にはない「米刺し」、
優雅に舞う「蝶刺し」など、
独特の文様もある。
遊佐刺し子は約150種以上、確認されている。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/10/MG_0217-1-1540x1370.png)
土門玲子さんは『「遊佐刺し子とその歴史」研究会』、
「LLP遊佐刺し子ギルド」を設立。
橇曳き法被や、遊佐刺し子の保存や教室、
技術指導を行っている。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/10/MG_0197-1306x1540.jpg)
これも土門さんの作品。
「刺し子が今後も残っていくように」と
パッチワークと遊佐刺し子を融合させている。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/10/MG_0191-1540x1514.jpg)
遊佐の名勝「丸池様」をテーマにしたもの。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/10/MG_0209-1266x1540.jpg)
世界で初めて円形に刺したことが評価され、
文部大臣賞を受賞した「雪花火」。
![遊佐刺し子](https://kategoto.com/wp-content/uploads/2022/10/aa73443c1d2d03f76d8fcbca7a844839-1540x1033.png)
教えてくれた人/土門玲子さん
洋裁・デザインを学び、遊佐町に店を構える。遊佐刺し子に魅力され、「LLP遊佐刺し子ギルド」を設立し、教室を開催しながら遊佐刺し子の研究・出版・海外での展示・販売を行っている。英語版で出版した本・展示会で、遊佐刺し子は海外でも人気。現地で習いたいと、多くの団体が遊佐を訪れている。