かてごと帖

削り花(けずりばな)

削り花(けずりばな)

くるくる、くるくる。
くるくる、くるくる。

いくつもいくつも、重ねて重ねて。
コシアブラの木をうすく削ってつくる削り花。

削り花(けずりばな)

山形の雪の時期にだけ咲く
削り花。

削り花(けずりばな)

山形県米沢市の南部、笹野地区に向かう。
あたりはまっ白。
朝もやに包まれている。

山も道も、家も庭も。空も風も、空気まで、
何もかもがまっ白になる山形の冬。

削り花(けずりばな)

朝日がのぼってきた。
幻想的な景色。

朝の除雪作業や、雪道での車の渋滞。スリップ事故。
雪に、恨み事を言いたくなる日もあるけれど、
こんな美しい景色が見れる日もある。
神様からのごほうび!

削り花(けずりばな)

笹野地区で受け継がれる伝統工芸、
笹野一刀彫(ささのいっとうぼり)。

鋭い眼光と、くるりと巻いた美しい羽。
これが鷹をかたどった、おたかぽっぽ。

削り花(けずりばな)

「ぽっぽ」はアイヌ語で玩具の意味。
1200年前、坂ノ上田村麻呂が戦勝祈願に
笹野一刀彫を奉納したと伝わっている。

削り花(けずりばな)

削り花は花のない、色のない季節
神棚や仏壇におそなえされてきた。

削り花(けずりばな)

かつて百人いた笹野一刀彫の工人。それが二十人ほどになっていた。
「このままでは笹野一刀彫が無くなってしまう。何とかしたい」と
笹野民芸館を遊び場にしていた、双子の佐藤和寛さんと佐藤和憲さん、
幼馴染で同級生の小山泰弘さんの3人は一念発起。

大ベテランの高橋清雄さんに弟子入りを志願した。
十五の伝統の形を教えてもらい、干支十二支を彫れるようになった3人は、晴れて笹野一刀彫の工人に。
高橋清雄さんが「おたか三兄弟」と名付けてくれた。

おたか三兄弟の佐藤和憲さん(左)と小山泰弘さん。

削り花(けずりばな)

笹野一刀彫の道具。

削り花(けずりばな)

笹野一刀彫はサルキリ一本でつくられる。
左から材料のコシアブラ、
サルキリ、チヂレ(小刀)。

コシアブラは木が水分を吸い上げなくなる
紅葉時に自分たちで山に入って調達する。
乾燥させるのに1ヵ月を要する。

削り花(けずりばな)

削り花にはこの、チヂレを使う。
スー、スー。
一枚一枚薄く削ると
くるくるくるっと巻きあがっていく。

削り花(けずりばな)

コシアブラの木に、水分がほどよく残った
鮮度のいい状態でないと、このカールができない。
鮮度がよくないと、怪我もしやすいのだそうだ。

削り花(けずりばな)

スー、スー。
神経をつかう繊細な作業。
細く長く、一削り一削り・・・・・・。

削り花(けずりばな)

それが重なって、ようやくひとつの花になる。

削り花(けずりばな)

サルキリで最後の仕上げ。
めしべをつくって、切断。

削り花(けずりばな)

花びらを起こしていく。

削り花(けずりばな)

笹野花の完成。

削り花(けずりばな)

ツゲの木。これも高山から採取してきたもの。
そのツゲに花を4つ、つぼみを1つ付け、
削り花になる。

年末年始や一月十七日の笹野観音のお祭りに飾られてきた、この花。
かつて雪国の室内は、窓が少なくガラス窓もなかった。しかも囲炉裏のススで薄暗く、
今よりずっと色彩が少なかったはず。

素朴な佇まいの削り花が、
米沢の長い冬を楽しませてきたのだと思う。