かてごと帖

すげ笠

すげ笠

ひゅ~ん、風が吹き抜けていった。
ここは山形県西置賜郡飯豊町中津川地区
8月上旬の菅(すげ)畑。

これが畑?
ただの草でしょ?
そう思う方もいるでしょう。
すげ笠を知らなかったら
私もただの雑草に見えてたな。

中津川地区では江戸時代から
すげを育て、すげを使った
笠やござがつくられてきた。

すげ笠

山などに自生しているすげ。
ここで田んぼの一部をすげ田にし、育てている。

「すげ」はカヤツリグサ科。
すげは茅葺屋根の材料とは違う。

ベストな刈り時期は、土用の丑の頃から。
この辺りのおばあちゃんたちは、
すげの固さが絶妙な時期に、タイミングを見計らって刈り取っている。

すげ笠

 

 

すげ笠

代々営まれてきた、すげ笠づくりだが高齢化が進み、
つくり手が少なくなっている。

中津川地区は約6ヶ月間、雪に覆われる。
雪の量は3メートルに。
仕事のない冬の時期、男性は竹などで笠骨をつくり、
女性はその笠骨にすげを縫い付けて、
笠をつくってきた。

写真は山形県の祭り、花笠祭り用の笠だ。

すげ笠

神奈川から移住してきた「こしゃる」の葉月さん。
この辺りのおばあちゃんたちから
すげ笠づくりを教わり
数少ないすげ笠のつくり手になっている。

すげ笠

自由な糸の動きが魅力的な葉月さんの笠。

2本の針を同時に動かすことで、文様を描いている。
2本の針を使うのは、すげ笠づくりに魅せられた
葉月さん独自のテクニック。

「すげ笠は編むのではなく、針で草を縫うよう」と
葉月さんは言う。
他の草を使ったものは織ったり、
編んだりするのだと。
糸で縫いつけるというのは
「すげ笠」だけではないかと。

すげ笠

これは先ほどの古い写真のお嫁さん
ヨシおばあちゃんのつくった笠。
頂点の花結びも美しい。

 

すげ笠

1本のすげは、茎が三角形になっていて、
太い部分と細い部分がある。
用途に合わせて使い分ける。

外側の太いものを笠の表側に
内側の細めのところは、笠の内側(ツツガラミ)に。
さらに細い部分は山菜を縛ったり
ゴザをつくったり。
全て無駄なく使える。

すげ笠

こんな風に。
最も細い部分を使って結んだ、笹巻き。

すげ笠

仕分けたすげを、竹のヘラで裂いていく。

昔の人は必要な道具は、何でも自分でつくっていたんだよなぁ。

 

すげ笠

いよいよ笠づくり。
笠骨に内側(ツツガラミ)用のすげを巻いていく。
笠づくりには笠骨が必要なのだが、
今、つくれる人はごくわずか。

真ん中のカラフルなのは、すずらんテープ。
昔は植物の赤麻(あかそ)を使っていたが、
時代を経て、すずらんテープが今の定番に。

すげ笠

ツツガラミを進める。
横に横にと、しっかりとすげを巻く。
濡らしたすげは乾くと縮むので、
なるべく隙間を少なく、
ひたすら、すげを笠骨に巻いていく。

すげ笠

ツツガラミができたら、次は表側。
笠の表にヨシを使ってすげを留めていく。
ヨシはこの辺で取れたものを
おばあちゃんに分けてもらったそう。

すげ笠
すげ笠

糸で縫っていく。
ひと針ひと針を丁寧に。
この針は、葉月さんのお父さんが
自転車のスポークからつくったもの。
長くて弾力があって、使いやすそう。

ちなみに、おばあさんたちは
コウモリ笠の骨などから、
つくってもらったんだって。

作り方を見る作り方を閉じる

すげ笠

江戸時代、米沢藩の上杉鷹山が推奨したという中津川のすげ笠。材料となるすげの栽培から収穫、製作が行われており、花笠踊りで無くてなならない花笠として、今もつくり続けられている。中津川では自分用の笠として、自作している方がいる。

⚫️材料
・菅(すげ) よく乾燥させたもの
・ヨシ(又はひごや竹)弾力があって折れにくいもの

●道具
ハサミ、針、霧吹き、糸(今回は刺子用糸)

⚫️つくり方
1、すげを刈り、なるべく早く、重ならないように干す。
(1日目はアスファルトの上でもOK)
風で飛ばないように広げ、鉄パイプなどで重しをする。そのままだと管理が大変なので、取り込む時に、ある程度束ねる。刈り取り後のすげは、水に濡れると赤茶っぽくなるので、雨や夜露にあてないようにする。夕方には取り込む。



2、2日目は束ねたものを扇のように広げ、草などの上に干す。(朝露に濡れないよう、草が乾いてから干す)
すげは乾燥すると白くなる。色がムラにならないよう、扇型に広げて干す。天候を見ながら、2~3日同じ工程を繰り返して完全に乾燥させる。乾燥が足りなかったら、さらに干す。先端までは白くならないので、根本が白くなればOK。干しすぎると焼けて赤っぽくなる。すげの乾燥は夏の間に終え、その後の保管は湿気の無いところに吊るしておく。

3、笠をつくる前に、すげを選別する(3つに分ける)。
内側(ツツガラミ)に使うのは細めのもの。

笠の表には一番太いものを。そのほかの最も細いものと、3つに分ける。

4、すげを裂く。
内側(ツツガラミ)に使う、細めのすげ(葉はV字型になっている)を2つに裂く。
外側用の太いすげ(これも葉がV字型)は、根本5センチほどはそのままにし、上部を2つに裂く。
これらの作業は、竹ヘラのような道具を使って行う。

すげのつるっとした面が表(写真左)、ざらっとした方が裏。
すげ笠は外側も内側(ツツガラミ)も、人の目のつくところ全てに、すげの表がくるようにする。

5、笠骨中央の部分に、ツツガラミ用のすげを巻く。巻き初めはすげの裏を見えるようにして巻くと、内側(ツツガラミ)部分では、すげの表が出る。
作業中、すげは霧吹きで湿らせておく。乾きそうになったら湿らせる。1ヶ所を留めてから、巻き方は「骨3本分進んだら1本戻る」を繰り返し、まず1周する。2周目は骨1本分ずらして、同じことを繰り返す(始めたところに戻ってきたら、また3本目のところに進む)。

すげの先は割れやすいので、カットして新しいすげをつなぐ。
つなぎ方は、カットした古いすげの下に新しいすげを滑り込ませてから、縦の笠骨ごと巻き込む。

2周したら、笠骨の円の輪になった部分を巻いていく。


6、笠骨を表にする。頂点の円と同じくらいの大きさの紙を用意する。立体にしたいので2ヶ所くらいに切り込みを入れておく。 紙は米袋や包装紙など、何でもよい。

紙をすげで固定する(適当で可)。固定できたら横へ横へとすげを巻いていく。すげは内側(ツツガラミ)から見ると表が見えるようにする。



同じ作業を繰り返す。最後の3㎝くらい(手に持つ部分のため、耐久性が増すようにする)をすずらんテープや麻紐に変え、同じ作業を行う。

すげや麻紐の最後の止め方/すげや麻紐を縦骨に巻いてから、一段上に裏から出す。笠骨にきゅっと寄せるときっちり留まる。

内側(ツツガラミ)が完成。

7、笠の外側をつくる。まずヨシを糸で、笠骨につける。

外側用のすげを、ヨシではさむように固定する。裂く時につなげておいた部分で笠骨をぐるっと巻き込みながら、それをヨシと糸で留める。

1ヶ所、固定した裏側。

2つ目以降のすげの固定は、裏のすげを横に倒してから、糸で固定する。


ヨシが足りなくなったら、新しいものを重ねて糸で固定し、つなげていく。

1周したら、最初の立ってるすげを寝かせ、糸で止める。

8、すげを下から、笠の淵に沿って縫っていく。ここからは縫い目が見える。糸の終わりは玉結びをして固定する。次の糸で縫い始める。

全てのすげを1針1針、少量すくって縫っていく。上に行くにつれてすげが重なってくる。邪魔な部分はカットして減らしながら縫っていく。

笠の上部は本数の減ったすげで、花結びなどを。

その上に、さらしを縫い付けて保護をする。

 

教えてくれた人/ 舩渡川葉月さん

環境保護・伝統工芸の継承などのNPO職員として働いた後、神奈川から移住。
中津川での暮らしと笠づくりなどを学び、「こしゃる」として農村体験などを
受け入れている。飯豊町の雪室を活用した「雪室熟成珈琲」も販売している。

 

作り方を見る作り方を閉じる